(前略)
しかしこのようなチプラス首相に対し与党・急進左派連合(SYRIZA)の一部議員は「変節」と反発を強め、
財政改革法案の採決では毎回40人前後の議員が反対や棄権に回りました。造反した議員のうち25人は
SYRIZAを脱退して新党を結成したとの報道もありました。これまでSYRIZAの議席数は149。全300議席
の半数に1議席足りないため、独立ギリシャ人党(議席数13)という右派政党と連立を組んで過半数を
確保していましたが、今回の一連の造反で連立与党は事実上過半数割れに陥っているのです。財政
改革法案は、もともと緊縮を支持する野党の賛成を得て成立させましたが、チプラス首相の政権基盤が
やや弱まっていることは確かです。
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そこで総選挙に打って出て、あらためて支持を獲得して政権基盤を固めようというのが、今回の狙いです。
7月の国民投票では緊縮反対の方が多数だったわけですが、EUとの合意によって危機が落ち着いた
今なら選挙に勝てるとの読みがあるのでしょう。しかも今後の緊縮策の実行によって景気が一段と悪化
する恐れがあるため、時が経てば経つほど国民の反発が強まる可能性があります。それなら選挙は
早い方がいい、そんな計算がうかがえます。
現地の世論調査によると、7月下旬の時点ですがSYRIZAの支持率は33.6%で、第2党である野党・新民主
主義党(ND)の17.8%を大きく引き離しています。こうした数字もチプラス首相の決断を後押ししたのかも
しれません。
政局の混乱が続くようなら、EUと約束した財政改革が遅れるかストップする恐れ
しかしこれは大変な賭けと言わざるを得ません。総選挙は9月20日頃に実施される見通しのようですが、
チプラス首相の思惑通り与党が勝てる保証は何もありません。与党からの造反組の議席数を差し引くと、
選挙後の単独政権は困難とみられますし、逆に議席を減らせば連立の新たな枠組みをめぐって政局が
混乱する可能性があります。場合によっては、対立していた野党・NDとの連立など連立の組み替えも
ありうるでしょう。
もし今後も政局の混乱が続くようなら、EUと約束した財政改革の実行が遅れるかストップしてしまう恐れ
があります。そうなれば、EUからの金融支援の続行が滞ったり見送られたりする可能性もあり、またぞろ
ギリシャが資金繰りに支障が出るような事態も起こり得ます。
"中国ショック"に加え、ギリシャ情勢も世界経済の不透明要因
そもそもギリシャ危機の背景の一つに、政治の混乱あるいは劣化がありました。
この連載第1回で書きましたように、1970年代以降、長年にわたって政権交代を繰り返してきたND、
全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の2大政党が人気取り政策に終始したこと、財政赤字の統計をごまかして
いたことなどが、危機の遠因を作ったわけですし、危機が起こって以降も対応が後手に回って支持を
失っていきました。現在の政権を担うSYRIZAも大衆迎合主義の傾向が強いうえ、チプラス首相の政治手法
は今回のやり方や7月の国民投票のように、一種の政治的賭けを好むかのように見えて危うさを感じます。
(以下略)
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