雲はなく、陽が平等に降り注ぎ、木々も動物も活力に溢れている
誰もが仰ぎたくなるようなそんな青空
しかしこの男だけはこの世界で一人暗かった
チャリンコを漕ぐ男に気づき、前方にいる夫婦は道を開ける
「よける必要なんかないのに、どうせこの後信号に引っかかるんだから」
そうは思いながらも、男は軽く頭を下げ、ギアを上げながら進む
50mほど進んで交差点で足を止める
男が対向に目をやる
ショートパンツをはいた女の子が泣いている、アイスクリームを落としたのだ
しかし問題はない。すぐに母さんが駆けつけて慰めるのだから
まぁそれから先のことは知らないが
そう、この男は未来予知が出来たのだ
朝起きて今日一日、自分がどんなことをしてどんなものを見るのかわかってしまう
全くそれ通りに動いて、狂うことはない
だから男はいつも退屈だった、視えるだけ。変えられないし、変わらない
匂いも感情も、すべては最初からそこにあって、男はなぞるように進むだけ
しかし今日は少し違った、男は今日、死ぬ予知を見たのだ
しかも自殺
「笑えるな。まさか自殺で死ぬとは。」
最後の食事はサンドイッチと決まっている。コンビニでそれを買って近くの岬に向かう
岬の端に立って男は思う
「はぁ、まったく、私は何のために生まれたのだろうか。起きたときにはすべてが決まっている。
自分の思うようにしたようでいて、何一つ決めてはいない。羨ましいというやつもいたがさっぱりだ、
私の人生に起伏はない、それが何よりもつまらない」
時間が来た
太陽が地平線に沈むと同時、私はこの崖から飛び降りることになっている
男は最期に赤く燃える二度目の空を見た
鈍い音がしてそれから真っ暗な夜が来る
男の身体は波にさらわれ、広い海の藻屑となった