801サロン@チラシの裏避難所 1890枚目 #426

426名無しさん@Next2ch:2019/10/22(火) 15:12:58.65 ID:???

魑魅魍魎の跋扈する時代、鬼や妖魔を退治することを生業とする男がいた。
彼はその日、さる貴族の姫君が鬼に見初められ、今日にも連れ去られてしまうと聞きつけてその鬼の退治を引き受けた。
「わたくしのことはよいのです。どうぞご無理だけはなさらないでくださいまし……」
美しい姫は男にそう言ったが、男はますます張り切って鬼を待ち構えた。
やって来たのは身の丈六尺はあろうかという巨躯に赤ら顔、額からは角が突き出し、口からは鋭い牙がギラつく赤鬼だった。
「姫よ、輿入れの支度は整うたか!」
声もまた見た目にふさわしく、地を揺さぶるほどの力強さを湛えている。
「そうはさせるか」
男は大太刀を抜き放ち、鬼に斬りかかった。
しかし鬼の肌は鉄のように硬く、刃は中ほどでぱきんと折れてしまう。
「むうっ、俺さまの邪魔をしようというのか!」
鬼はその太い腕を振り回すと、男を屋敷の壁に叩きつけた。
なんという強さか。これほどの剛力、今まで味わったことがない。
今にも気を失いそうな男に向かい、鬼はのっしのっしと地を揺らしながら歩み寄る。とどめを刺そうというのだろう。
もはやここまで。
きつく目をつむった男のまぶたにふと影が落ちた。
「おおっ、姫よ、そこにおったか」
なんということか。姫君が両腕を広げ、男を守るように立ち塞がっているではないか。
「姫、いけません。お逃げください」
「いいえ、逃げませぬ」
毅然として跳ね除けて、姫君は鬼を睨みつけた。
「鬼よ、まずはわたくしより優れていると示しなさい。そうでない男の妻になる気はありませぬ」
鬼はからからと笑い声を響かせた。
「いいぞ、姫よ。なにを比べる?歌か?琴か?舞でも一つ、披露してみせようか」
「いいえ」
屋敷中に響くような、重々しい音が鳴り響いた。
男と鬼の目の前で、姫がその帯を解いて地に落とした音だった。
「力でございます」
再びの地響き。先よりよほど重い物が地に落ちた音だった。
姫は身にまとっていた十二単を脱ぎ去り、長袴一枚になっていた。
筋骨隆々たるその身はたくましく、男は思わずと見惚れてしまう。
「ちぇいっ!」
気合の声とともに姫君の腕が空を横に凪いだ。
すると虚空が音もなく歪み、視えない刃を作り出して鬼の胸元を切り裂いた。
「むうっ!」
ぶしゅっと吹き出した血に、鬼は驚いて後退る。
男は目撃していた。姫君がその全身に力を込めた瞬間、その大きな背に、鬼のような顔が浮かんだのだ―――
「さあ、本気で相手をしてやる」
クイッと指先で招いてみせて、姫は岩のような拳を縦拳にして構えた。
「うぬぬ、姫よ、後悔するなよ……」
「御託はいい。かかってこい!」
鬼は雄叫びを上げながら飛びかかった。丸太の如き剛腕を、まるで姫を抱擁するかのように広げ、突進する。
疾い―――!
巨大なその身を、男は目で追うのが精一杯だった。
迎え撃つ姫の拳など目で追うことさえ叶わなかった。
一拍遅れてパアンと空気が弾けるような音が響いた。
腰を落とした姫の正拳突きが鬼の腹に深々と突き刺さっている。
「うぬうぅっ!」
「期待はずれか……」
すっと拳を引き、体幹の戻しを利用した左フックが鬼の顎を捉えた。
「ッラァ!」
グラついた鬼の巨躯に、姫のラッシュが突き刺さる。
血飛沫が撒き散らされ、鬼はみるみる間に打ちのめされ、ついには指一本姫に触れることも叶わず地に倒れ伏してしまった。
「ふんっ! 軟弱者めが!」
吐き捨てるように言って、姫は大垂髪をかき上げた。
すると、渡殿

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