うっふんを晴らす
うっふんうっふんうっふんうっふんうっふん……♥?
立ち込めたうっふんがあたり一面を覆いつくしていた
この季節にはそう珍しくはない現象で、おかけで五メートルさきの視界すらきかなくなる
夜ともなればなおさらだ
自動車のヘッドライトがうっふんのために乱反射し事故になりかねない
うっふんのために外出をあきらめ、家にこもりにきりなる日が続くのだ
「やってらんねぇなぁ」
草薙はぶつぶつと呟きながら、橘に左手を差し出した
「いつもおっしゃる」
「しかたがねぇよぉ」
橘はなれた手つきで一太刀を差し出し、握らせる
刹那、わずかな構えもなく草薙は鞘から鋭い一閃を放った
閃光はうっふんの屈折をものともせず、それをふたつに切り裂く
間、髪を入れず草薙がもう一太刀を振り抜いた
草薙の一太刀ごとにうっふんは切り刻まれ、千々に霧散する
草薙が鞘に刀身を納めたとき、最後のうっふんが闇夜に溶けた
その舞うような刀さばきの始終を、橘はいつものようにうっとりと見つめていた