(久々に、夢に見たな…)
夢に出てきたあいつは、目をこすりながら、何度もみた笑い顔でそこにいた。俺の名前を、嬉しそうに呼ぶ。
(困ったな、そんなふうに呼ばれると嬉しくなるな)
俺も返事をして、名前を呼びかえそうとしたら…そっと。そっと、近づいてきて、そしてそっと俺の手に撫でるように触れて。離れた。
強引に握ろうとしたことも昔はあったくせに。
(なんで…?)
その俺の問いかけに、あいつは答えた。
「今は、もうだめだし、まだだめだから。」
そうして背を向けて、手を振って歩いて、消えていった。
「でも、いつか、もしよかったら、本当に会えたら、そのときは――」
消えてゆく瞬間、そんな声が聞こえたような気がした。
目が覚めて、一瞬時間も場所もわからなくなったが、しばらくしてようやく夢だと気がついた。
(思い返すと、なかなか勝手な言い分だったな、あいつの言葉)
でも――俺も時間が少し経ったからか、ちょっとだけは怒りもせずにあいつの言葉を受け止められた。
(なんであいつが言うんだか…まあ、でも、そうだな、いつか…)
窓辺に置きっぱなしの貝殻が、カーテンの隙間からの日差しを浴びて、光っていた。