> その数時間後、目は乾ききって閉じることもできず、大きな前歯は1本折られ、変わり果てた姿で剣太は息をひきとりました。
その時、弟・風音(かざと)の様子がおかしい事に気付き、剣道部の部活動中に何があったのか尋ねました。 風音は何か思い詰めたように話し始めました。私たちも、ようやく真実がわかってきました。風音は最初は私たちを これ以上悲しませてはいけないと思ってあまり多くを語らなかったのです。
風音が少しずつ話し始めました。8月22日のその日、剣太は剣道部の練習中に熱中症を発症し、ふらつき、荒い呼吸、 さらには意識障害などが見られ始めていたのです。ところが、剣太がふらつき始めてから「演技をするな! そげん演技はせんでいいぞ。」と顧問は言いました。そして剣太一人に厳しい練習を課した時も、腰が「く」の字に曲がるほど 蹴ったり、壁に何度もぶち当って意識を失い、倒れて動かなくなっている剣太を何度も殴り続けたりしたこと――。 顧問の声だけに反応し最後の力を振り絞り何度か目だけをうっすらと開けたこと――。風音は声を荒げ涙を流しながら、 自分が見たことを私たちに話しました。
通夜の席で、顧問が私達の前に座りました。風音は拳を振り上げ、泣きながら顧問に叫び続けました。 今にも殴りかかろうとする風音を、私たちの親戚の男性2人が抑えました。妻が顧問に問い詰めました。 「ふらつく剣太を蹴ったり殴ったりしたんでしょ! なぜ!」 すると顧問は「気付けの為にやりました」と、その言葉だけを繰り返すだけでした。 親戚の者が副顧問に「なぜ止めなかった!」と怒鳴ると、「止めきりませんでした!」と数回大きな声で答えました。 明らかに、おかしい答えです。