【アニメ】業界の低賃金は手塚治虫のせいなのか? 見えてきた意外な真実
■■■■ 悪いのは手塚治虫? ■■■■ 日本のアニメについて語られるとき、そこで働く人たちの低賃金が問題にな。 アニメが好きでその仕事をしているので、いわゆる「やりがい搾取」になっている、と。
【写真】テレビ朝日『モーニングショー』の玉川さんを見ていつも思うこと
それはアニメのみならず、映像の世界全体に言えるようでもある。 しかし映像全体であれば、不況でテレビ局の業績がどうこうとか、とくに特定の個人のせいにはされないが、アニメに関しては、いまだに「手塚治虫が『鉄腕アトム』を安く作ったおかげで、アニメーターは低賃金になった」と、亡くなって30年が過ぎている手塚治虫のせいにされている。
本当にそうなのだろうか。
『アニメ大国建国紀1963-1973』を書いた動機のひとつは、この「手塚治虫疫病神説」を検証し、覆したいとの思いがあったからだ。 ひとは断片的な「事実」をもとに、「物語」を捏造してしまいがちだ。
手塚治虫疫病神説もそのひとつであり、この「誤った歴史」を拡散させたひとりが、宮崎駿である。
1989年に手塚治虫が亡くなったとき、マンガ専門誌「Comic Box」1989年5月号、「特集 ぼくらの手塚治虫先生」で、宮崎駿はインタビューに応じ、手塚を絶賛する記事で埋め尽くされるなか、ただひとり、全面否定した。
そのインタビュー、『手塚治虫に「神の手」をみた時、ぼくは彼と決別した』は、宮崎駿の著作集『出発点 1979~1996』にも収録されているので、「一時の感情、何かの勢いでつい喋ってしまった」失言ではない。宮崎が自分の発言として広く読んでほしいと望んでいるものとみなしていい。
宮崎はこう発言している。 〈アニメーションに対して彼(手塚治虫)がやったことは何も評価できない。虫プロの仕事も、ぼくは好きじゃない。〉
〈手塚さんが喋ってきたこととか主張したことというのは、みんな間違いです。〉
ある意味では、勇気ある行為である。亡くなった人、しかも業界で最大の権威を持つ人物の、雜誌の追悼特集での全面否定なんて、普通はできない。お通夜に行って、「あの人はひどい人だ」と言うようなものだからだ。
宮崎駿がいかに特異な人であるかを示す。 (中略。全文はソース記事にて)
■■■■ 宮崎さんの喋ったことは、みんな間違い ■■■■ 『鉄腕アトム』はTV局から支払われる放映権料だけでは赤字でも、副収入で利益が出ていた。その利益は虫プロの社員に給料として還元されていた。社員は独立できるだけの給料をもらっていた。社員の待遇がよかったため、虫プロの経営は悪化し、倒産した――。
これが虫プロの歴史の概略であり、そのどこにも、手塚治虫がアニメ労働者を低賃金で働かせた事実はないのだ。
『鉄腕アトム』のおかげで、長編アニメをじっくり作れなくなったのも、宮崎の事実誤認というか、捏造である。東映動画の経営悪化、長編アニメ軽視への転換という経営判断のどこに、手塚治虫が関係していたというのか。
宮崎は〈手塚さんが喋ってきたこととか主張したことというのは、みんな間違いです〉と言ったが、同じように、「宮崎さんが手塚治虫について喋っていることは、みんな間違い」なのだ。
中川 右介(編集者) 現代ビジネス 8/30(日) 9:01