苦しい評議 異例の判決 点滴3人中毒死で無期懲役 元看護師に「身勝手極まりないが、更生の可能性」
https://www.sponichi.co.jp/society/news/2021/11/10/kiji/20211109s00042000648000c.html
横浜市の旧大口病院(現横浜はじめ病院・休診中)で2016年、入院患者3人の点滴に消毒液を入れて中毒死させたとして、殺人罪などに問われた元看護師久保木愛弓被告(34)の裁判員裁判で横浜地裁は9日、「更生の可能性が認められる」として無期懲役の判決を言い渡した。求刑は死刑だった。
家令和典裁判長は判決理由で、被告は自閉スペクトラム症の特性があり、事件当時はうつ状態だったが「自分の行為が違法なものであると認識しつつ、犯行に及んでいる」として、完全責任能力を認めた。
その上で「看護師の知見と立場を利用し、計画性も認められ悪質」と断じた。患者の家族に対応しなくていいようにとの動機も「身勝手極まりない」と非難した。
一方で、自閉スペクトラム症の特性から人付き合いが苦手で、看護師の資質に恵まれない被告が殺害を繰り返した経緯は「努力ではいかんともし難い事情が色濃く影響していた」と述べた。
また、法廷で自分に不利な内容も含めて素直に供述しており「犯罪の重大性を痛感し、最終陳述では死んで償いたいと述べるに至っている」とも指摘。死刑がやむを得ないとは言えず「生涯をかけて罪の重さと向き合わせることにより、更生の道を歩ませるのが相当だ」として無期懲役が妥当と結論付けた。
言い渡し後、裁判長は被告に「苦しい評議でしたが、生涯をかけて償ってほしい」と説諭した。
判決によると、16年9月、いずれも入院患者の興津朝江さん=当時(78)、西川惣蔵さん=同(88)、八巻信雄さん=同(88)=の点滴に消毒液「ヂアミトール」を混入し殺害。殺害目的で点滴袋5個に消毒液を入れた。
弁護側は公判で被告が事件当時、心神耗弱状態だったとして無期懲役を主張していた。3人を殺害した被告の完全責任能力を認めた上で、死刑を回避するのは異例。
判決を受け、横浜地検の安藤浄人次席検事は「内容を精査し、適切に対応したい」、横浜はじめ病院は「患者に寄り添い、守るべき病院で、看護師がこのような恐ろしい行為に及び、大変申し訳なく思う」とそれぞれコメントを発表した。
西川さんの長女は「納得がいかない。被告は生きていくことは許されたわけだが、どうやって償っていくのか」との思いを報道各社に寄せた。