英国とフランスを隔てるイギリス海峡(English Channel)に生息する海洋哺乳類のバンドウイルカ(学名:Tursiops truncatus)の皮膚と脂肪に、水銀や他の毒性汚染物質が高濃度に含まれていることがわかった。研究論文が12日、発表された。
英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に掲載された論文によると、沿岸海域に生息する多数のバンドウイルカを対象に生体組織検査を実施した結果、これまでこの種で観察された検出濃度としては最も高い水準にあったという。
特に母乳中に濃縮される毒性物質は、多数の海洋哺乳類の間で出生率が低下していることとの関連が指摘されている。環境中に長期間とどまる「残留性有機汚染物質(POPs)」として知られる工業用化学物質は、1970~1980年代に大半の国で使用禁止となったが、今なお広範囲の海洋生物で検出されている。
毒性物質は食物連鎖の上位に進み、最上位捕食者に至るまでの間に濃度が高まる。最上位捕食者には、マグロなどの脂肪が多い魚やイルカやシャチなどの哺乳類がいる。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)と呼ばれる化学物質群では特に、このような「生物蓄積」が起こりやすい。PCBは塗料や難燃剤、さらには電気配線や油圧油などさまざまな工業製品に使用されている。
海岸に打ち上げられた健康なバンドウイルカの組織サンプルに基づく過去の研究では、脂肪に著しく高濃度のPCBが含まれることが示されていた。PCBの「ホットスポット(局所的な高濃度汚染域)」としては、ジブラルタル海峡(Strait of Gibraltar)、イベリア半島(Iberian Peninsula)南西域、カディス(Cadiz)湾、地中海(Mediterranean Sea)などが知られる。
「これらの高濃度PCBは依然として、欧州の海域に生息するクジラ目の個体数減少の主な原因となっている」と論文は指摘する。クジラ目は数十種のクジラやイルカが属する分類区分の一つだ。
今回の最新研究では、イギリス海峡のノルマンノ・ブルトン湾(Normanno-Breton Gulf)に生息するイルカ約420頭の個体群を調査した。この海域は活発な産業活動、農業活動、都市活動などにさらされている。
イギリス海峡のイルカ58頭から採取したサンプルでは、58頭のうち57頭でPCB濃度の限界値を上回っていた。研究チームは、海洋哺乳類の繁殖能力と免疫系を低下させるのに十分なPCB濃度の限界値を1キロ当たり9ミリグラムと推算した。
雄の方がより高い濃度を示したが、これは雌が「妊娠および(中略)授乳の期間中に、PCBの大部分を自身の子に引き渡してしまう」からだと、論文は指摘している。
ベルギー・リエージュ大学(University of Liege)のクリシュナ・ダス(Krishna Das)氏率いる研究チームは、ノルマンノ・ブルトン湾には欧州に生息するバンドウイルカの最後の大規模な個体群が存在するため、同湾を「特別保護区域」に指定するべきだと主張している。
英海峡のイルカから高濃度の毒性物質、論文 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3244370