ドイツのジグマル・ガブリエル副首相兼経済・エネルギー相は1日までに、欧州連合(EU)と米国が交渉中の自由貿易の枠組みである
環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉は事実上決裂したとの見方を示した。
ドイツのテレビ局ZDFとの会見で表明した。
TTIPに関する米欧の話し合いは2013年6月以降続き、自らの政権の遺産の1つとしたいオバマ米大統領は来年1月までの残り任期内に成立させることを望んでいる。
しかし、交渉のペースは遅々としており、今年7月に開かれた第14回会合でも大きな対立点での距離は縮められず、目立った成果がないまま終わっていた。
ガブリエル副首相は、欧州側は米国の要求に屈服することは出来ないと主張。
ドイツの大小規模の輸出業界は協定から恩恵を受けるため自由貿易には賛成するとの原則的立場を示しながらも、
協定はいかなる犠牲を払ってでも締結されるわけではないとも強調した。
EUの行政執行機関である欧州委員会は今年末までにTTIPの締結を実現させる用意があるとの立場を表明。
ただ、同委のマルガリティス・シナス首席報道官はユンケル欧州委員会委員長が2年前に示した見解に改めて言及。
「自由貿易のために欧州側の安全性の確保、健康管理、データ保護などを図る上での基準や文化的な多様性を放棄することは出来ない」と述べた。
欧州委はTTIP交渉で加盟国に代わって前面に立っている。
TTIPの支持者は100万人以上の新規雇用を創出するなどの利点を主張している。
欧州委によると、協定が発効した場合、EUの国民1人当たり545ユーロ(約6万26800円)の所得増が毎年見込めるとしている。
ただ、反対意見も多く欧州側ではTTIPやカナダの貿易協定交渉を中止させるため320万人以上が嘆願書に署名している。
大規模な貿易交渉では協定草案などの内容が公表されないのが通常だが、TTIPへの反発はこの秘密性にも根差している。
内部告発サイト「ウィキリークス」はTTIP文書の暴露に10万ユーロの報奨金も約束している。
欧州の労組や圧力団体はTTIPには事業が損害を受けた場合、政府を訴訟に持ち込めることが容易になる規定が盛り込まれているため
米国大企業に多大な有利材料になるとの懸念も強い。
反対派はまた、より多くの公共事業が民営化されるとし、教育や健康管理などの分野が影響を受けるとも危惧している。
欧州委は協定交渉ではこれらの分野は対象になっていないと主張しているが、米国が進出を強く要求していることを示唆する交渉内容も暴露されている。
さらに協定は欧州側が維持している食料の安全管理規定や環境保護基準が弱められているとの不安も出ている。欧州によるこれらの規定は米国よりはるかに厳しいものもある。
TTIPについては米国内でも反対論が強まっている。大統領選の共和党候補である実業家ドナルド・トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)や
環太平洋経済連携協定(TPP)などを含む自由貿易協定を再三批判。「米国のビジネスへの攻撃」とまで言い切っている。
民主党の大統領候補であるヒラリー・クリントン前国務長官は長官在任時代は自由貿易の擁護派だったが、最近は懸念を示している。
http://www.cnn.co.jp/business/35088415.html