ポーランド 自由な報道を取り戻せ
ポーランド政府が報道の自由を制限し、司法の権限を弱めるなど強権化を強めている。社会主義体制下で、自由と民主化を勝ち取った自主管理労組「連帯」の原点を思い起こしたい。
強権政治を進めているのは右派政党「法と正義」の政権。中東からの難民受け入れ反対などを訴え、昨年十月の選挙で上下両院での単独過半数を獲得した。
まず、憲法裁判所が違憲判決を出すのに必要な判事の同意人数を過半数から三分の二に引き上げ、判事十五人のうち五人を指名し直して、政策への違憲判断を出しにくくした。
公共放送や通信社を国有化する法律を作り、テレビ局、ラジオ局のトップをすげ替えた。政権に批判的だった記者が解雇された。
国内外から、抗議の声が上がっている。
「連帯」議長としてポーランドの民主化を率いたワレサ元大統領(72)は「自由、民主主義に反し、われわれを世界の笑いものにしている」と厳しく批判した。
市民団体「民主主義を守る委員会」には十三万人以上が参加し、各地でデモを続けている。
ポーランドは二〇〇四年に欧州連合(EU)に加盟した。欧州委員会は、強権的な政策が、EUの基本原則である「法の支配」に反していないか、調査を始めた。
「法と正義」と、中道の現野党「市民プラットフォーム」が十年来、交代で政権を握ってきた。
強権的な政策の裏には、ライバル政党の勢力をそぎたいとの思惑がにじみ出る。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016012902000144.html
ポーランドは社会主義時代に「連帯」結成を果たし、労働者の権利確立、社会主義圏初の非共産政権発足など、自由化、民主化への動きを積極的に進めた。
EU加盟後は順調に経済を成長させ周辺諸国とも協調。「市民プラットフォーム」を率いた元首相のトゥスク氏が現EU大統領を務めるまでに欧州での信頼は厚い。
強権政治の司令塔は「法と正義」党首のカチンスキ元首相だ。大統領だった双子の弟とともに、〇六年から〇七年までの首相在任時、愛国主義を掲げ、大統領の権限を強めて自由を制限する憲法改正を目指した。
昨年の選挙戦では「病気や寄生虫が持ち込まれている」と難民受け入れへの不安をあおった。
違和感を禁じ得ない。カチンスキ氏もかつて、「連帯」で活動していたという。自由と民主主義を重視する政治に立ち返りたい。