運動用具メーカー「ミズノテクニクス」で、米大リーグのイチロー選手や松井秀喜さんら名選手のバット製作
を手掛けていた久保田五十一(いそかず)さん(72)がそば店経営に転じ、新たな分野で挑戦中だ。
「作るものは違っても同じ職人。お客さまの求めに応え続けることが私の喜び」と目を輝かせる。
滋賀県甲賀市。信楽高原鉄道の信楽駅前に、久保田さんがいとこの山口道雄さん(66)と共同経営
する「そば処山久(さんきゅう)」がある。三年前にオープンし、久保田さんは嘱託社員としてミズノテクニクス
で働きながら店を手伝っていたが、昨年四月に同社を退職後は店に専念。そばの湯がきや、つゆの仕込み
を担当している。「味付けはどう?」。客の声に耳を傾け、その場で反応が返ってくることに新鮮さを感じている。
そば店を開くきっかけもバットだった。六年前、そば打ちが趣味というスポーツ用品店オーナーから「バットを
削れるんだったら、そば打ちの麺棒も作ってみてよ」と声を掛けられた。オーナーからの提案に「これだ」と
ひらめき、麺棒作りを開始。太さや長さなどミリ単位の注文にも応じた。伝説のバット職人が手掛けるという
だけでなく、しなやかな使い心地も評判となり、退職までに作った千本は完売。今では、市場にも出回らず、
幻の麺棒と呼ばれている。この麺棒を、定年後の楽しみとして、そば打ち道場に通っていた山口さんに贈った
ことが、そば店を開くことにつながった。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201512/CK2015121802000246.html