南シナ海での掃海 排除せず 首相「要件満たせば」
安倍晋三首相は二十九日の安全保障関連法案に関する参院特別委員会で、集団的自衛権に基づく戦時の機雷掃海について、南シナ海で行うことは想定しにくいとしながら、排除しない考えを表明した。
可能性を否定しない姿勢を示すことで、南シナ海への進出を強める中国をけん制する狙いがある。
これまで戦時の機雷掃海の事例には中東・ホルムズ海峡だけを挙げてきたが、政府の判断次第で他の海域でも実施できることが鮮明になった。
首相は特別委で、南シナ海に機雷がまかれた場合、日本への燃料輸送が長期間途絶え、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になるかどうかについて「南シナ海は迂回(うかい)ルートなどもあるので想定しにくい」と説明。
続けて「基本はもちろん(武力行使の)三要件に当てはまれば対応していく」と述べた。次世代の党の和田政宗氏の質問に答えた。
首相は中国の軍事費の急激な増大を指摘した上で、「南シナ海で大規模かつ急速な埋め立てを一方的に強行し、既存の国際秩序とは相いれない独自の主張に基づき、
力による現状変更の試みを行っている」と名指しで批判。
東シナ海の沖縄県・尖閣諸島周辺の海域に、中国公船が領海侵入を繰り返していることも挙げ、安保法案の早期成立の必要性を訴えた。
和田氏は、中国が南シナ海で弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦の配備を進めていると指摘。
原潜に対する他国軍の警戒活動を排除するために、中国が機雷をまけば「日本や米国にとっても死活問題だ」として首相の見解をただした。
◆中国脅威論で逆風かわす狙い 「ホルムズ封鎖」根拠薄れ
安倍晋三首相が二十九日の安全保障関連法案に関する参院特別委員会で、南シナ海で戦時の機雷掃海を実施する可能性を排除しない考えを示した背景には、
法案に世論の逆風が強まる中、軍事的存在感を増す中国の「脅威」を持ち出すことで国民の理解を得たい思惑がにじむ。
首相がこだわり続ける中東・ホルムズ海峡での集団的自衛権行使に基づく機雷掃海は、日本から遠く、国民の生命や権利が覆される「存立危機事態」になり得るとの説明は、国民にほとんど理解されていない。
イランの核協議も合意し、根拠はさらに揺らいだ。
そこで、訴えの力点を国民の懸念が強い中国の軍事的台頭に移した。首相は参院特別委で、中国の海洋進出を「わが国と国際社会の懸念事項だ」と批判した上で、南シナ海での機雷掃海に言及。
五月二十八日の衆院特別委では、戦時の機雷掃海として「念頭にあるのはホルムズ海峡が封鎖された時だけだ」と答弁していたが、軌道修正した。
だが、首相が自ら認めるように南シナ海は一部を機雷封鎖されても迂回(うかい)が可能で、原油輸入が止まって日本が存立危機事態となる現実味は薄い。
それでも実施する余地を残す姿勢を取り続ければ、逆に法案への国民理解はますます遠のくことになる。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015073090070116.html