現在公開中のアニメーション映画『この世界の片隅に』が大ヒットを記録している。上映館は68館と小規模であるのにもかかわらず、前週末も観客動員数では10位にランクイン。本サイトでも取り上げたが、主演の能年玲奈あらためのんの独立騒動問題が影響しテレビでの宣伝が極端に少ないなか、逆に口コミで評判を呼んでいるようだ。
それを象徴するかのように、ネット上では同作を絶賛するコメントが多々まとめられているが、そんななかでとくに目につくのは、「反戦・平和のようなメッセージ性がないところがいい」という評価だ。
〈この世界の片隅に 面白かったわ。はだしのゲンや火垂るの墓のような偏狭な左傾反戦平和映画じゃない。〉
〈『この世界の片隅に』は、教科書のお説教みたいな反戦イデオロギー臭さから距離を取ることにかんっぺきに成功している。〉
〈日本が悪い!という思想やメッセージのおしつけがない〉
〈過去の反戦に囚われた作品では伝わらなかったことも、この作品からは伝わってくる〉
〈朝日新聞的な左巻き教科書のお説教みたいな反戦イデオロギー臭さが無いとの評価が多数〉
たしかに『この世界の片隅に』は、戦中であっても生活を少しでも豊かにしようと奮闘する主人公すずの姿が活き活きと描かれ、家族との団欒は笑いに溢れている。そして、戦渦に巻き込まれ、戦争によって大切なものを奪われても、すずは反戦や平和を声高に叫んだりはしない。そういう意味では、中沢啓治の『はだしのゲン』とは大きく異なるだろう。
だが、この作品を「反戦・平和のようなメッセージ性がないところがいい」と評価するのは、とんだ勘違いだ。風景画を描いているだけで憲兵からスパイ扱いを受けたり、道端の雑草をおかずにするほどの貧しい暮らしを強いられる様子は、笑いのオチがあるから救いがあるだけで、戦争の肯定になどにはけっしてならない。さらには身近な命が危険に晒され、昼夜を問わない空襲によって心身共に疲れ果てていくさま、そして原爆投下後の広島の風景からもたらされるものは、その時代を生き延びた人びとの苦労を偲ぶ気持ちと、「戦争はまっぴらだ」というシンプルな感想のはずだ。
しかも閉口してしまうのは、「反戦・平和じゃないところがいい」という意見どころではない、もっととんでもない解釈まで飛び出していることだ。
全文はソース先にて
http://lite-ra.com/i/2016/11/post-2722-entry.html