回転せよ、と彼女は言った。 ID:pPkmzzhJ

1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2018/09/24(月) 00:22:12.62 ID:pPkmzzhJ

万物は巡り巡るものだもの。回転するのが自然なの。回りもせずに存在するとか、実はこの世にありえないし。だからみんな、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると……

例えばほら、ナポレオンズ。バルト小石の頭。
あるいはChoo Choo TRAINの冒頭の動き。「読み込み中…」のgif。黒鳥のオディール。華麗なるフェッテ・アン・トゥールナン。リプニツカヤのキャンドルスピン。かつての私たち。

言われればそう。たしかにみんな回ってる。

あの時は戯言だと思ったけど、いま考えてみれば、わりと的を得ているように思う。そんな彼女の言葉につられるように、頭の中では次々と回転するものが浮かび上がる。

寿司もだ。竜巻も。こま、ミキサー、ブラウンオーラルB、サラダスピナー、ジャイアントスイング、レコード、CD、DVD。

ああ、この世のあらゆるぐるぐるたちよ。
古今東西、現在過去未来、すべての瞬間に回り続けていたことたちよ。回転が生み出す、その力よ。

その力が、私にも欲しい。たとえどこに吹っ飛ばされようとも、それでかまわないから。

対決の時が近づいている。汗が頬を伝い落ちる。蝉時雨がうっとおしい。まもなく敵が姿を現すはずなのに。
あの敵のことならだいたいわかっている。
漆黒のセーラー服を着て、なびくロングヘアも黒。薄絹のタイも、ツヤツヤのローファーも、みんな黒。
切り揃えた前髪の下には顎の細い、恐ろしいほどきれいな顔がのぞいている。

きっともうすぐ、そこの角からゆらりと出て来て私の前に立ちはだかる。
真夏の光を背に背負い、黒く燃え上がる炎みたいな闘気を揺らめかせ、敵は言うのだ。あの決め台詞を、澄んで甘く響く声で。

「あなたの」
右手のラケットで私を差し、
「罪を」
左手に持つ聖なるボールをちらりと見せつけ、
「断じてあげる!」
と。

いつかは向き合わなくてはいけなかった。そいつと戦い、勝たなくては、私は前に進めない。ここから先を生きられない。

その敵の名は、罪という。

陽射しがつむじを焼いている。体がどんどん熱を帯びていく。
ふと、暑さで緩んだ頭で考えた。

私たち、どうしてこんなことになったんだっけ?

しかし答えは見つからず、思い浮かぶのはあの日の彼女の澄ました笑顔。やがて迫りくるだろう、聖なるボールのえげつないスピン。

ぐるぐる、ぐるぐる……扇風機。フラフープ。フリスビー。ていうか地球。ていうか銀河。そもそも原子。全部。すべて。みんな。私も。

回転するのが世界の理で、自然のルールだった。止まることなど決して許されなかった。

そんな当たり前のことを知ったのは、つい最近。発端はあの夏。
私はあの頃、必死に回転を止めようとしていた。


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